ホタテガイは千島列島、サハリン、北海道、本州の太平洋側では東京湾以北、日本海側では富山湾以北、朝鮮半島北部に分布しています。産業的分布としては千島列島、北海道のオホ−ツク海沿岸、噴火湾、本州の青森県陸奥湾です。近年、三陸沿岸でホタテガイの垂下養殖が行われるようになり、産業分布に南下がみられます。漁業生産が多いのは北海道と東北地方で、沿岸域の水深10〜70m位の、砂礫、砂泥の海底に右殻を下にして、砂をかぶって生活しています。波の穏やかなサロマ湖や能取湖などでは2 m位の深さの所にも棲んでいます。
ホタテガイは4月〜6月に水温が4〜8 ℃になると産卵します。雌雄異体です。天然貝では0年貝と満1年貝はすべて雄ですが、2年貝以上ではほぼ半数が性転換して雌になります。一方、地蒔き漁場で種苗として放流した稚貝(放流貝)と養殖貝は成長が良いため、満1年貝で性転換するものもあります。抱卵数は4年貝で約1億粒、卵巣はピンク色、精巣は白色です。生殖巣が赤と白のモザイック状になった個体が稀にみられます。これは雌雄同体の個体です。産卵後は生殖巣が透明になり、雌雄の別が分からなくなります。
海水中で受精し、生れたホタテガイの幼生は約35日間浮遊生活したのち、海底の砂礫、岩石、養殖施設などに足糸で付着します。付着後、成長は著しく速くなり、約2〜3カ月後に殻長(殻の長さ)が10〜20mm になり、足糸を切って海底生活に入ります。棲息地の水温は大体−1.5〜23 ℃の範囲で生活し、18 ℃前後が最適水温です。この範囲よりも高くても、低くてもホタテガイの生活機能は低下します。害敵であるヒトデ類などの触手がホタテガイの体に触れると耳状部スキ間から海水をジエット状に噴射して逃げます。
ホタテガイの生殖周期はオホ−ツク海とつながっているサロマ湖では、オホ−ツク海の流氷が去った4〜6月が成熟期、水温が上昇期の5〜6月が放出期(産卵期)、最高水温期の7〜10月が休止期、11月から翌年3月までの最低水温期の冬期は成長期です。生殖巣の成熟と産卵は日照時間が長くなり、水温が上昇する時期に行われます。生殖巣は春と秋のホタテガイの胃内容物指数の高い時期、すなわち、摂餌活動の盛んな時期に発達します。また、この時期は餌となる植物プランクトンの増殖期にあたります。
体成長は満1年までは大きいですが、3年以後の成長は小さくなり、6年以後は極めて小さいです。サロマ湖産ホタテガイの成長は3月上旬から6月上旬にかけての春の成長期と、10月上旬から12月上旬までの秋の成長期の2回みられます。とくに、秋の成長の方が大きいです。
成長休止期は6月下旬から9月中旬までと、12中旬から翌年2月下旬までの2回あります。夏の成長休止期に夏輪が、冬の成長休止期に冬輪が形成されます。ただし、満1年貝の成長休止期は9月から10月にかけてあるので、この時期に満2年貝以上の夏輪に相当する同心円状の成長輪が形成されます。満1年貝の夏輪は夏季の高水温期に形成されますが、冬輪の形成は冬季の低水温による極度の代謝機能の低下よるものと思われます。満2年貝以上にみられる夏輪は産卵による生理的変化が原因と考えられます。この夏輪の数や夏輪と夏輪の間隔の広狭からホタテガイの成長過程、生活状態などの生活履歴を知る事ができるので、生活履歴像と呼ばれています。そして、年齢を示す指標として多くの有用貝類で使われています。
ホタテガイを始めとする二枚貝類は貝毒を持つことがあります。北海道に発生する貝毒は「まひ性貝毒」と「下痢性貝毒」の2種類があります。貝毒原因プランクトンはウズ鞭毛藻の「アレキサンドリウム属とデノフィシス属」の2種類の植物プランクトンです。ホタテガイを始めとする二枚貝類は海水中の植物プランクトンやデトリタスを餌としています。餌として摂取したプランクトンの中にこれらの貝毒プランクトンが含まれていると、それらが持つ毒がホタテガイの体内に蓄積され、毒性が強くなります。毒力は6〜7月をピ−クに春から秋に高いが、毒化の時期やピ−ク時の毒力は年変動が大きいです。「まひ性貝毒」は1個の貝で大人1人分の致死量の毒力を持つ事があるので、毒力が基準値を越えると生鮮貝の出荷を規制しています。毒の蓄積される部分は中腸腺で、通称ウロと呼ばれているところです。貝柱に毒は蓄積されません。