水産資源と水温の関係〜ウニ編

元北海道立網走水産試験場増殖部部長
元東京農業大学非常勤講師   
水産学博士    瀧  襄  

 地球上のすべての生物は、それぞれの生活に適した温度(気温、水温)範囲のなかで生活しています。したがって、生活している場所の温度が生活に最適な範囲を超えて高くなっても、また、低くなっても生活する事が難しくなります。例えば、熱帯、温帯、寒帯それぞれの地方などに生活する動植物は、本来生活している場所以外の土地では生活ができないか、生活が難しくなります。私達の身近な例として、例えば、農作物は気温が低いと不作になり、反対に高すぎても収量が減ります。豊作の年は農作物の生育に適した気温であったと言えるでしょう。

 海に生育している海藻にも同じことが言えます。海藻は太陽の光と海水中の炭酸ガスとで光合成を行って体を作り成長しています。海水の温度(水温)が海藻の生育に適した温度であれば海藻の生育も良く、海藻を餌としている小動物や、それを餌とする小型の魚が集まります。すると、これらを餌にしている大型の魚が集まってきます。したがって、それぞれの海域の水温が漁業の対象魚種の生活に適した水温になっているかどうかが漁獲量(水揚げ量)の多寡につながります。

 このように、温度は陸上で生活する私達にきわめて密接に関係しております。同様に海中の水温変化に気を配る事は漁業においても、とても大切な事と言えます。以下に具体例として、水産資源の一つであるウニの生態と水温の関係について概要を述べます。


エゾバフンウニ

 エゾバフンウニは日本列島の太平洋側では福島県から、日本海側では山形県からそれぞれ北の方、北海道沿岸、朝鮮半島、中国東北部、サハリン、千島列島の択捉島などに分布し、沿岸から水深約50m 付近までの岩礁地帯で生活しています。海底の石、岩、岩盤などに生育しているコンブ、ワカメ、その他の海藻を主に食べていますが、小動物なども食べる(共食いもします)ので雑食性と言えます。
 北海道では暖流が流れる日本海、冬に流氷が接岸するオホ−ツク海、そして寒流の流れている太平洋と性質の違う三つの海に生息しています。

日本海沿岸で生活しているエゾバフンウニの成長周期は季節(水温)と関係しており
 1、2月の最低水温期では、摂餌量(餌を食べる量)は一年中で最も多く、食べた餌の栄養の8割位をウニ殻の成長(体成長)に使い、身体(ウニの殻)を大きくします。また一般に食用にされる卵(身、生殖巣)の増加には殆ど使いません。
 3、4月頃になると、対馬暖流の流れは徐々に強くなり始め、水温も上り始めます。水温の上昇にしたがって餌を食べる量も減り始め、食べた餌の栄養をウニ殻の成長(体成長)から卵(身、生殖巣)の増加に振り向けられ始めます。
 5月頃以降は水温が上昇し続けます。ウニは食べた餌の栄養を卵(身、生殖巣)の増加に向ける割合が増え続け、ウニ殻の成長(体成長)に振り向ける割合は減りますので、ウニ殻の成長は減少に向かいます。卵(身、生殖巣)は増加に向かいます。
 6月中旬頃から7月上、中旬頃には食べた餌の栄養の約8〜9割が卵(身、生殖巣)の増加に向けられ、7月下旬〜8上旬頃には卵(身、生殖巣)は最大になります。この期間を成熟期と呼び、最も身の入ったウニが捕れます。水温は最高水温期です。ウニ殻の成長(体成長)は停止しています。
 8月中旬頃から9月上〜中旬頃にかけて、最高水温から少し水温が下がると産卵をはじめ、産卵期に入ります。産卵期は生活している海域によって違いますが、産卵期間は大体1カ月〜2カ月半位のようです。この最高水温期間の餌を食べる量は最も少ないのです。
 ウニは産卵が終わると10月中、下旬頃〜12月上、中旬頃まで長い休養期間に入ります。この期間のウニは身体を維持する程度の量しかたべません。したがって、ウニ殻の成長(体成長)も卵(身、生殖巣)の増大もしません。
 さらに水温が下がる12月中旬前後頃から再び餌を食べる量が増え、同時に食べた餌の栄養の8割位がウニ殻(体成長)の成長に振り向けられ始め、徐々にウニ殻の成長量(体成長)が大きくなっていきます。最低水温期の1、2月にはウニ殻の成長は最大になります。12月中旬から翌年3月中旬頃までを体成長期と言います。

 日本海域に住むエゾバフンウニの成長はこのような周期で行われています。オホ−ツク海沿岸域、太平洋沿岸域に生活しているエゾバフンウニも生活の周期は大体同じと思われます。


キタムラサキウニ

 キタムラサキウニは北海道では日高沿岸、室蘭から長万部付近、森から渡島半島沿岸、江差から羽幌付近、奥尻島、天売島、焼尻島、稚内付近、利尻島、礼文島などで生活しています。棲んでいる場所はエゾバフンウニよりも深く、沿岸から水深180 m付近までの岩盤、転石、玉石地帯で生活しているので、沿岸域の浅いところで生活しているエゾバフンウニとは生活様式は違いますが、生活の周期は似ているところが多いと思われます。


ホタテ編